これまでグローバルマーケティングの課題について述べてきた。
(1)顧客を特定しにくい
(2)顧客ニーズが把握しにくい
(3)商品を現地事情に合わせるのが難しい
(4)適正価格がいくらかわからない
(5)販売チャネルの決め方がわからない
(6)広告宣伝における訴求方法がわからない
(7)市場投入するタイミングがわからない
(8)納品するタイミングがわからない
一般的によくある改善活動では、それぞれの課題に対する解決策を見つける作業に進んでしまう。いわゆる対症療法である。
例えば、「社員の士気が低い」という課題があるとすれば、「社員の士気を高めるために社歌を作って毎日歌う」という解決策を提案するのである。
しかし、それはさらに問題を深刻化しかねない。1つ1つの解決策を検討する前に、こうした課題の根本原因を見つけることが重要となる。
これらの根本原因は何か?
上記5つの課題に共通している点は何か?
その1つは、現地の情報が不足していることである。
しかし、これが根本原因だろうか?
たしかに、これから海外進出しようとしている企業にとってはこの問題は深刻であろう。しかし、私は17年にわたるコンサルティング経験の中で数多くのグローバル企業を見てきたが、現地の情報があったらうまくいくというわけではない。現地法人の担当者が情報を上げても、本社での意思決定される段階になると、なぜか本社の意向や日本国内の工場の声が強くなってしまうこともある。現地の情報があればうまくいくというわけではない。
現地の情報があっても、本社の意向や国内の工場の声が強くなるのはなぜか?
まず、国内の工場の声が優先される理由であるが、以前に述べた通り、一般的には「製造コスト」を下げることが推奨されており、また、稼働率を上げる努力も奨励される。現地の仕様にカスタマイズすることが、段取り替え時間の増加につながり、「製造コスト」の増加や稼働率の低下につながるのであれば支持は得られにくい。
では、本社の意向が強くなるのはなぜか?
これは大きく2つの理由が考えられる。
1つは「製造コスト」と同様に「販売コスト」がかかることが多いからである。特に国内工場で生産した商品を国内で売る場合と海外で売る場合を考えると、輸送費が余計にかかるので海外で販売した方がコストが高くなる。コスト増になるのであれば、コストの安い国内での売り上げを伸ばした方が良いと考えがちなのである。
もう1つの理由は、多くの場合は国内担当者と海外担当者が別の人物になっており、会社における業績評価は、それぞれの人物のパフォーマンスを評価する仕組みになっていることが挙げられる。
国内担当者と海外担当者がそれぞれ売上を向上させようとすると、当然、予算の配分、人員配置、商品の仕様など、自分の担当している領域に有利にしてもらいたいと考えるようになってしまう。国内担当者と海外担当者が同期の人であれば尚更その傾向は強い。
実はこの業績評価制度が根本原因となっており、評価制度を最適化することで、これまで挙げてきた課題も同時に解決できるのである。
次回以降、どのような評価制度にする必要があるか、考察する。